TinySwitch-II 及び TinySwitch-III の設計計算

TinySwitch-II の設計計算

TinySwitch-II の設計計算では、最悪条件の動作環境を想定しています。最小動作電圧 (VMIN)、最小カレント リミット (ILIMITMIN)、及び最小スイッチング周波数 (FSMIN マイナス最大ジッター) での動作を想定しています。結果として生じる波形のパラメータ計算 (KP) は、最大の電力供給を想定し、効率 (N) 及び係数 Z (Z) の予測値に基づいています。TOPSwitch-GX の設計の場合と同様に、効率及び係数 Z は最小動作電圧で定義されます。
 

TinySwitch-II を使用している場合には、同等のトランスに蓄えられるエネルギーは最小になり、最小カレント リミット (ILIMITMIN) 及び最小スイッチング周波数 (FSmin) が示されます。これは図 2 に示されています。蓄えられたトランスのエネルギーは、トランスの一次巻線での電圧 (たとえば、バルク入力電圧) を乗じたドレイン - ソース間電流 (IDS) 波形下のグレーの斜線の領域に相当します。この領域には、ESTORED のラベルが付けられています。これらの波形は、定常状態での連続動作 (上部) 及び不連続動作 (下部) の両方を表します。実測はサイクル スキップ モード内で異なる場合があります (TinySwitch-II の動作」を参照してください)。
 

PI-2750-050801

図 2. TinySwitch-II のドレイン - ソース間の定常状態の電流の波形。

 

トランスにより供給できる電力は、蓄えられたエネルギーを合計のスイッチング期間 (秒) で除算したもの (PSTORED = ESTORED / T (W 単位) 及び T = 1/FSMIN (秒単位)) と等しくなります。スイッチング期間 (T) は、1/FSMIN として示されています。 電力は一般的な用語と同じです。
 

PTF = ½ * LPmin * (ILIMITMIN^2 - IINIT^2) * FSMIN

 

最大カレント リミット (ILIMITMAX) で導通サイクルを終了すると、追加の蓄積エネルギーを供給できます。この蓄積エネルギーは、図 2 の IDS 曲線の下の、追加の斜線でない領域に相当します。その結果、最大カレント リミットの動作によって、サイクルごとに追加のエネルギーが供給されます。レギュレーションを維持するために、TinySwitch-II は以降の導通サイクル (複数可) を停止 (有効なスイッチング周波数またはサイクル スキップの削減) 及び/またはステート マシンの変化とともにカレント リミットを削減させます (TinySwitch-II の動作」を参照してください)。過負荷エネルギー (過負荷電力とも呼ばれる) の量は、一部、TinySwitch-II デバイスの特性によります。これらのパラメータは、公開されているデバイスの公差により異なります (TNY264-268 のデータ シートを参照してください)。

さらに、トランスの一次インダクタンス公差 (LPmin) による過負荷電力における偏差も予想され、これはドレイン電流の曲線の傾きを設定します (図 2 を参照)。表示される計算済のインダクタンスは、最悪条件の TinySwitch-II デバイス特性での電力供給を確保するのに必要な最小値を表しています。一次インダクタンス公差は、一般的には +/-10% ですが、+/-20% くらいの高さになることがあり、それはトランスの製造要因によって決まります。[デザイン結果] フォームには、必要とされる一次インダクタンス (LPmin) と、最悪条件の TinySwitch-II デバイス特性が表示されます。設計者は、トランスのメーカーと連携して、定格一次インダクタンス及び許容設計公差を決定する必要があります。
 

説明したように、KP は TinySwitch-II デバイス ファミリー内で計算される値です。この計算は、デバイスの最小カレント リミット及び定常状態のデューティ サイクル (DMAX) に基づいています。図 2 は連続モード (KP<1) 及び不連続モード (KP>=1) の動作を示しています。連続モードは、IINIT として示される初期電流がゼロよりも大きい場合に発生します。PI Expert は、KP が実行可能な制限を下回ると、該当する警告メッセージを表示します。
 

最悪条件のトランス設計での許容動作を保証するには、最大カレント リミット (ILIMITMAX) 時を想定し、次の計算を行います。またこれらの計算は、削減された有効なスイッチング周波数 (サイクル スキップ) での動作も想定しています。

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TinySwitch-III の設計計算

TinySwitch-III の設計計算は TinySwitch-II の設計計算と非常に類似した方法で行われます。ただし、TinySwitch-III の高精度な I2F 公差により、最小カレント リミットまたは最小スイッチング周波数を含むすべての計算は、実際には、I2F 公差によって与えられる最悪条件のカレント リミットまたはスイッチング周波数を使用します。つまり、デバイスの高精度な公差によって、電源に必要な設計マージン全体を小さくできるのです。

たとえば、ある部分に、指定された可能な限り低いスイッチング周波数がある場合、指定された最も低いカレント リミットは生じません。代わりに、その部分には、指定された最小の I2F 積を保証するように、高い側にカレント リミットを持つことになります。作業例に、TNY274P を使用します。

データ シートに指定されているように、I2F 積は次の標準的なカレント リミット及び標準的なスイッチング周波数の両方で計算されます。

ILIMIT_TYP = 250 mA

FTYP = 132 kHz

最小 I2F の乗数は、データ シートで指定された 0.9 の乗数を使用して以下のようになります。

I2FMIN = 0.9 * ILIMIT_TYP2*FTYP = 7.425 A2 * kHz

したがって、データ シートで指定された、ジッターを含まない最小スイッチング周波数を与えて、取り得る最悪のカレント リミットを計算するには次のようになります。

FMIN = 124 kHz

ILIM@FMIN = [ (7.425 A2 * kHz) / ( 124 kHz ) ] 1/2 = 0.245 mA

データ シートの 124 kHz の最小スイッチング周波数で動作する部分は、0.245 mA 以上のカレント リミットがあることになります。

反対に、最小カレント リミットを持つ部分がある場合、データ シートの最小スイッチング周波数より高いスイッチング周波数 FS@ILIMIN を確実に持つことがわかります。

ILIMMIN = 230 mA

すると、この部分の取り得る最悪のスイッチング周波数 (ジッターを含む) は次のようになります。

FS@ILIMIN = [ (7.425 A2 * kHz) / ( 230 mA2 ) ] - 4 kHz = 136 kHz

ソフトウェアも最悪条件のジッターを考慮するので、指定された電力は確実に供給されます。

結論として、デバイスの I2F 公差により、電力供給及び安全限界内でのすべての部品の動作を確保するのに必要な設計マージン全体を削減することによって、システム コストを削減することができます。

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