多出力電源の設計と単出力電源の設計は類似しています。設計上の考慮事項、及びすべての一次側回路は同じです。しかし、すべての出力の性能を最適化する際に、追加の設計の変更が必要になる場合があります。適切な巻線の巻数 (電圧センタリング)、正しいワイヤ サイズ (電流密度)、最適な巻線積み上げ (出力間のクロス レギュレーション) を決定することは、容易な作業ではありません。この文書では、適切な多出力フライバック電源を構築するための方法について概説します。多出力電源の設計の詳細については、PI アプリケーション ノート「AN-22」を参照してください。
フィードバック情報は、多出力フライバック電源のメイン出力から供給され、制御されます。この情報によって、トランスのボルトあたりの巻数 (TV) の比率が決定されます。
TV = NSMAIN / [VOMAIN + VDMAIN]
他の (補助) 巻線に生じる電圧は、この TV 比によって異なります。補助巻線電圧 (VOx) は、巻線数 (NSx) を TV 比で割り、そこから出力整流器の順方向降下 (VDx) を引くことで算出されます。
VOx = [NSx / TV] - VDx
補助出力の設定ポイントの電圧を微調整するのは簡単です。各補助出力の巻数が必要な出力電圧にできるだけ近くなるまで、二次巻数 (NSx) を変更します。トランスは、整数でない巻数で巻くことはできないため、整数を使用することを忘れないでください。場合によっては、メイン巻線として低電圧出力を選択することもできます。この場合、低電圧出力の巻数は整数にする必要があります。これによって、非整数の四捨五入エラーによって生じる可能性のある電圧の誤りが最小限に抑えられます。
多出力の設計では、連続/不連続動作比 (KP) をできるだけ小さくして維持する必要があります。これによって、ピーク充電電流 (漏れインダクタンスと高ピーク電流に起因) が減少し、補助出力間のクロス レギュレーションが向上します。また、出力電圧フィードバックは、メイン出力のみ、あるいは出力の組み合わせから供給することができます。詳細については、以下のセクション、またはアプリケーション ノート「AN-22」を参照してください。
巻数の変更に加えて、各出力ダイオードの順方向電圧降下 (VDx) も変更することによって、優れた二次出力精度を実現することができます。出力のピーク逆電圧 (PIV) 要求を満たすために、さまざまなタイプのダイオードを使用することもできます。ダイオードの温度上昇を管理する上で、出力電流定格もダイオードの選択において重要な役割を果たします。さらに、さまざまなダイオード タイプによって、電源特性に影響する逆回復時間 (trr) が変わります。
ショットキーダイオードの順方向降下は約 0.5 V であり、低繰り返し逆電圧定格 (VRRM) は、たいていの場合、約 60 V 以下です。一般に、ショットキーダイオードも他のダイオード タイプより高価ですが、逆回復時間がなく、順方向電圧が低いためにエネルギーの効率が非常に高くなっています。
高速 PN 接合ダイオードは一般に、順方向電圧降下が約 0.7 V であり、高い VRRM 定格で使用できるため、高い出力電圧の場合に最適な選択になります。順方向電圧が約 1.0 V の標準 PN 接合ダイオードは、VRRM 定格が非常に高くなります。これは一次 - 二次巻線比によって生じる巻線の PIV が高いため、22.0 V を超える出力では一般的です。
PI Expert では、使用するダイオード タイプが自動的に最適化されますが、PI Xls は、出力ダイオード情報を提供するユーザーに依存します。一般的に使用される出力ダイオードのリストについては、アプリケーション ノート「AN-43」のテーブル 6、TOPSwitch-HX を参照してください。
AC 積み上げ巻線により、補助 (非メイン) 出力のクロス レギュレーションが向上します。下の図に、AC 積み上げ巻線、DC 積み上げ巻線、及びフローティング巻線の例を示します。
一般に、多出力電源では、フローティング出力巻線または AC 積み上げ出力巻線が使用されますが、DC 積み上げ出力巻線が使用されることもあります。フローティング巻線では、出力巻線ごとに別々のコンダクタが使用されます。これにより、必要に応じて各巻線の端をどちらも基準にできるため、自由度が最大限に高い設計が可能になります (それぞれの二次フローティング巻線は、互いにガルバニック絶縁になっています)。
AC 積み上げ出力及び DC 積み上げ出力では、電圧が低い方の出力の上に電圧が高い方の出力が構成されます。これらの積み上げ巻線は、すべて共通のコンダクタから巻いています。積み上げ巻線セットの始めは、すべての積み上げ巻線に共通の (通常はグラウンド) 電位点を基準にします。それぞれの積み上げ巻線の終わりを、その巻線の必要巻数がボビンに巻かれているトランス ボビン ピンにからげます。積み上げの次の巻線は、最後の巻線の終了ピンから始めます。したがって、電圧が高い方の出力の巻線がそれぞれ、電圧が低い方の出力の巻線の上に積み上げられることになります。ただし、他の巻線からガルバニック絶縁を確保するためには、独立した巻線を使用する必要があります。独立した巻線と積み上げ巻線を組み合わせることも可能です。
AC 積み上げ巻線では、積み上げにおいて電圧が低い方の巻線が、積み上げ全体の累積負荷電流を供給する必要があります。DC 積み上げ巻線では、積み上げ出力の出力ダイオード及びその下の巻線が、積み上げ全体の累積負荷電流を指定する必要があります。PI Expert では、自動的に、設計におけるこれらの側面が考慮され、特定の積み上げ構成に適した巻線ゲージと出力ダイオードが選択されます。PI Xls を使用して設計した電源出力を積み上げる場合は、各出力の計算された 2 乗平均 (RMS) 電流 (IRMS) に注意して、適切な巻線ゲージと出力ダイオードを選択してください。トランス巻線内では、十分な電流密度 (アンペアあたりの Cmil、つまり CMA) を維持する必要があります。これが維持されないと、、I2R の損失が原因でトランスが過熱し、信頼性と効率の面で悪影響が出ます。また、DC 積み上げ巻線では、必要な終端ポイントに対応するためボビン ピンの追加が必要になる場合もあることに留意してください。
出力の負荷レベルは変化するため、AC 積み上げ及び DC 積み上げによって、多出力間の優れたクロス レギュレーション及び追跡が提供されます。これが、フローティング (ガルバニック絶縁) 出力に勝る主な利点です。
多くの場合、フローティング巻線と積み上げ巻線を組み合わせて使用することができます。各巻線構成の相対的な利点と欠点の比較については、アプリケーション ノート「AN-22」のテーブル 3 を参照してください。
トランスの一次 - 二次側間 (及びさまざまな二次巻線間) の漏れインダクタンスにより、絶縁バリア間の結合が減少し、補助出力のクロス レギュレーションの精度が低下します。トランスの最適化には、負荷範囲で特性と出力電圧変動の折り合いをつけることも必要です。一次巻線の構造のガイドラインについては、アプリケーション ノート「AN-17」及び「AN-18」で提供されています。このガイドラインは多出力トランスに有効です。以下のガイドラインは、二次巻線の最適化に適用されます。
高出力電流の巻線は、一次巻線の最も近くに巻き付ける必要があります。これにより、漏れインダクタンス、及びスイッチのターンオフ時に漏れインダクタンスにより発生される関連電圧スパイクが最小限に抑えられます。
出力電圧変動で最小公差を必要とする出力は、メイン (安定化) 出力の最も近くに巻き付ける必要があります。これにより、巻線間のボルトあたりの巻数の結合が最大化し、その巻線の出力電圧のクロス レギュレーションが向上します。場合によっては、このような巻線とメイン巻線を交互に配置することができます。
各二次巻線の巻線 (必要に応じてワイヤ サイズを増やして) を用いて、ボビンの幅を完全に埋めます。層を埋めるのに役立つのであれば、単一の層に複数の出力を結合することも検討します。一般に、これらの巻線から供給される出力のクロス レギュレーションが向上します。
クロス レギュレーションの特性を向上させるために、コモン リターンを共有している巻線を積み上げることを検討します。これにより、漏れインダクタンスを減らしながら必要な巻線数を減らすことができ、全体的なソリューション効率を向上させることができます。
高出力電流のレイアウトを決める際に、基板配線インダクタンスを最小限に抑える必要があります。基板配線の長さは、できるだけ短く幅広にしてください。また、プラスとリターン (RTN) のコンダクタの間の領域は、できるだけ短くしてください。これらの出力の (漏れインダクタンスによって発生する) 電圧スパイクが最小限に抑えられ、全体的なソリューション効率が向上します。詳細については、「付録 B: 基板レイアウトに関する考慮事項」を参照してください。
大量生産の設計を始める前に、トランスのプロトタイプを作成してテストを行い、効率とレギュレーション特性を検証する必要があります。
2 つの出力の出力電圧変動の公差を小さくする必要がある設計では、共有フィードバックはオプションになります。設計者は、TL431 基準 IC を使用することによって、2 つの出力からのフィードバックを同時に結合することができます。この方法により、選択した補助出力のレギュレーションが向上します。ただし、メイン出力のレギュレーションの精度はほんのわずか低下します。下の図に、基準 IC の制御ピンで結合されている 5 V 出力及び 12 V 出力からのフィードバックを示します。複数の出力からのフィードバックの共有に関する設計ガイドラインについては、アプリケーション ノート「AN-22」の 9 ページを参照してください。
二次側リニア レギュレータを使用して、低電力出力の出力電圧の公差を高精度にすることができます。この方法には、損失が増加しコストが高いという欠点があります。しかし、この方法はシンプルであり、広い負荷範囲で高精度のレギュレーションを満たすことができます (ドロップアウト電圧は維持する必要があります。この電圧は、リニア デバイスに応じて異なります)。補助電圧が比例して既存の出力の電圧より低くなっている場合、リニアに追加のトランス巻線は必要ないことがあります (下の図、及びアプリケーション ノート「AN-22」を参照)。高出力電流が必要な場合、または出力巻線に過度のピーク電圧が生じている場合、あるいはその両方の場合、リニア レギュレータの消費電力が制約要因になる可能性があります。
既存のトランス巻線を使用したリニア レギュレータの実装